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実用技術開発事業の研究成果について

※1 農林水産省新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業委託事業
           〔代表機関:(独)農研機構 果樹研究所〕
  β-クリプトキサンチンの機能性研究について
  
 我が国では、この10年間で「β-クリプトキサンチン」に関する研究が急速に進み、新たな健康機能性が明らかになってきました。最も早く研究が行われた「がん予防」の効果を調べる試験では、β-クリプトキサンチンには他のカロテノイドに比べて、最も強力にがんを抑制する効力があることがわかりました1)。このほか、(独)農研機構 果樹研究所 杉浦 実 先生は、みかん産地の静岡県引佐郡三ヶ日町(現浜松市北区三ヶ日町)の住民約千名を対象とした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)を行い、その解析結果から、みかんに多く含まれるβ-クリプトキサンチンの血中濃度が高い人では、肝臓疾患(※2※3)、インスリン抵抗性動脈硬化、メタボリックシンドローム及び骨粗しょう症等のリスクが低いことがわかりました。これらの研究から、β-クリプトキサンチンが豊富に含まれるみかんを多く食べることが、特に肝臓を中心とした代謝性疾患の予防に有効であることが示唆されています。
 このため、実用技術開発事業では、(独)農研機構 果樹研究所が代表機関となり、金沢大学、(独)農研機構 食品総合研究所、愛媛大学、当社が共同機関として参画・連携して、平成22年度から3年間、非アルコール性の脂肪肝や脂肪肝炎等に対するβ-クリプトキサンチンの有効性や作用メカニズムを解明するため、動物試験及びヒト介入試験を実施しました(研究全体の概略 )。そして本事業の研究成果をもとに、疫学研究から動物実験レベル、ヒト介入試験まで体系的に行なわれた科学的根拠に基づくみかんジュースを開発しました。
 以下、その研究成果の内容を紹介します。
         


  非アルコール性脂肪肝及び脂肪肝炎とは
 お酒の飲み過ぎにより肝臓に脂肪が蓄積した状態を「アルコール性脂肪肝」といいますが、これに対して、糖尿病やメタボリックシンドロームなどアルコールに起因しない脂肪肝が「非アルコール性脂肪肝」であり,近年増加しています。
 人間ドックで肝機能異常を指摘される人が日本国内でも急増しており、成人の4人に1人が非アルコール性脂肪肝であるともいわれています。単に、肝臓に脂肪がたまった単純性脂肪肝の状態であれば大きな問題となることはありません。しかし、脂肪肝の患者の10〜20%は放っておくと肝硬変、肝がんに移行する危険性がある脂肪肝炎を発症しています。 
  動物試験による脂肪肝及び脂肪肝炎の予防、改善効果について
 金沢大学では、β-クリプトキサンチンが脂肪肝及び脂肪肝炎に与える影響を調べるため、マウスを用いた動物試験を行いました。その結果、餌とともに投与したβ-クリプトキサンチンが肝臓に作用し、糖脂質代謝やインスリン抵抗性を改善して、脂肪肝や脂肪肝炎になるのを予防することが明らかになりました。
 さらに脂肪肝炎になってしまった脂肪肝炎モデルマウスにβ-クリプトキサンチンを12週間与えると、肝臓組織での脂肪の蓄積、炎症、線維化が改善され、肝臓組織がほぼ正常に近い状態まで回復し、脂肪肝炎に対して治療効果もあることが明らかになりました(図1)。
      (金沢大学 太田嗣人 先生の研究データ)
  β-クリプトキサンチン高含有みかんジュースの開発について
 マウスで良好な試験結果が得られたことから、次に愛媛大学ではヒトにおいてもβ-クリプトキサンチンが有効かを検証するためのヒト介入試験を実施しました。介入試験を行うにあたり、今回新たに試験飲料を開発しました。
 試験飲料の開発コンセプトとして、以下の点について検討しました。まず、毎日1本を続けて飲んで頂くためには、おいしさが重要であると考え、自然で健康的なイメージを持つみかん果汁100%の飲料としました。次に、三ヶ日町での栄養疫学調査で、毎日、みかん約3個を食べている人が肝臓疾患のリスクが低いことから、1本あたりのβ-クリプトキサンチン含量をみかん約3個分に相当する3mgに設定しました。また、脂肪肝の人は、カロリーを取り過ぎていることが考えられたので、容器を小容量の125mlとすることにより、カロリーは55kcal(みかん約1個分)と低く抑えました。
 この開発コンセプトの実現のためには、従来のβ-クリプトキサンチン高含有果汁の製造法(特許第5010157号)より、さらにβ-クリプトキサンチン濃度を高める必要がありました。このため、遠心力の差を利用して、従来の製造法に比べ、約2倍の濃度とする製造法を開発しました。この新たな製造法で得られたβ-クリプトキサンチン高含有果汁を使い、β-クリプトキサンチン高含有みかんジュースを開発・製造して、ヒト介入試験に使用しました。
  愛媛大学でのヒト介入試験について
 ヒト介入試験は脂肪肝及び脂肪肝炎の人39名を対象としました。125mlあたり3mgのβ-クリプトキサンチンを含むみかんジュースを食事中あるいは食後に毎日1本12週間(84日間)、継続して飲用してもらい、β-クリプトキサンチンが肝臓に及ぼす影響について調べました。
 その結果、β-クリプトキサンチン高含有みかんジュースを飲用した脂肪肝炎の人では、肝機能を示す血液中の指標が改善し、また糖代謝能力の指標であるインスリン抵抗性の値や酸化ストレスを表す数値も改善されました。これらの結果から、β-クリプトキサンチン高含有みかんジュースには、非アルコール性脂肪肝炎の改善効果が期待できることがわかりました。また、この試験において、脂肪肝炎の人が併発している糖尿病が悪化することはありませんでした。
  おわりに
 このように、みかんに特徴的に多く含まれているβ-クリプトキサンチンに脂肪肝及び脂肪肝炎の予防・治療効果があることが明らかになりました。
 実用技術開発事業の成果として、このような効果の期待できるみかんジュースを当社が商品化しました。このジュースは、みかん1個分のカロリーで、みかん約3個分に相当する3mgのβ-クリプトキサンチンを摂れる125ml紙容器入りβ-クリプトキサンチン高含有みかんジュースであり、ヒト試験に使用したジュースと同じものをそのまま販売しています。
 医食同源という観点からも、β-クリプトキサンチンなどの機能性成分を含む食品を日頃から賢く選択して摂取することは、健康の維持・増進を図るうえで非常に重要であると考えられます。
 本研究成果の紹介記事は、(独)農研機構 果樹研究所 杉浦 実 先生、金沢大学 太田 嗣人 先生、愛媛大学 松浦 文三 先生にご監修いただきました。


 1) 矢野昌充ほか: 果樹研報 Bull. Natl. Inst. Fruit Tree Sci. 4: 13〜28, 2005: β-クリプト
   キサンチン研究最近の進歩




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